単一遺伝子遺伝病着床前診断(PGD)プログラム

単一遺伝子遺伝病着床前診断(PGD)プログラムとは

単一遺伝子遺伝病着床前診断(PGD)プログラム

単一遺伝子遺伝病着床前遺伝子診断(PGD=Preimplantation Genetic Diagnosis of a single gene genetic condition)(以下、「着床前診断(PGD)」と表記)とは、体外受精過程において、受精卵が得られた後、各々の受精卵(胚盤胞)に着床前診断を実施し、特定の遺伝疾患を引き起こす遺伝子変異が「無い」と診断された受精卵のみを選別して胚移植を行なうものです。着床前診断(PGD)は、『ご家系にある特定遺伝疾患を次世代に受け継がせない』という目的をもって開発された最先端技術です。

このプログラムは、『着床前診断(PGD)実施可能な遺伝病リスト』に記載のある特定の遺伝病のリスクが、患者様のご家系にあることが確認されている場合にのみ適応となる技術です。着床前診断(PGD)は、ご家系に特定の遺伝病がない患者様の受精卵に対して、考えられ得るすべての遺伝病について診断を行なうものではありません。(尚、「着床前診断(PGD)」と「着床前全染色体診断(CCS)」の同時実施は基本的に可能です。)

着床前診断(PGD)実施可能な遺伝病リストはこちらから

事前スクリーニング(個別ケースの検討)

ご家系にある遺伝疾患が、着床前診断(PGD)実施可能な遺伝病リストに含まれているのが確認できたら、次は、個々の患者様のケースが実際に着床前診断(PGD)の適応となるかどうかを遺伝カウンセラーが検討します。

検討内容の主な項目は以下の通りです:

  1. 患者様ご本人及び/或いは一親等の方のDNA検査の結果、その特定遺伝疾患の遺伝子変異が確認できているかどうか
  2. ご親族の発症者の方との続柄の確認
  3. 一親等の方からDNA検体の提出が可能かどうか
  4. 臨床診断の内容
  5. ハンティントン病などの場合、ご本人に対して完全非開示にて着床前診断(PGD)実施可能かどうか

上記を含むスクリーニングは、遺伝カウンセラーとの簡単な問診で終了できる場合もあれば、ご本人やご親族の方の検体をまず提出していただき、ラボラトリーにおける着床前診断(PGD)設定が可能かどうかを実際に試してみるまでわからない場合もあります。

まずは、IFCにお問合せください。

夫婦間体外受精における治療の内容

事前スクリーニングの結果、患者様の個別ケースで着床前診断(PGD)実施が可能であると遺伝カウンセラーが検討するのと同時に、ご夫妻が体外受精適応となるかどうかが確認されます。奥様の卵巣及び子宮機能が正常範囲であること、ご主人の精子が顕微授精を行うのに充分な状態であることが前提となります。

そのような前提条件が満たされたら、ご夫妻それぞれからDNA設定のために血液や精子の採取、ご親族から内頬の粘膜細胞あるいは唾液検体を提出していただくなど、遺伝カウンセラーの指示により実際の着床前診断(PGD)ラボラトリー設定準備が開始されます。この段階には通常数ヶ月が必要で、その間ご夫妻は日本で待機します。

一旦着床前診断(PGD)ラボラトリー設定が首尾よく終了したら、その後の行程において、患者様ご自身が直接関与する部分は一般の体外受精治療/凍結胚移植と全く同じで、追加のお身体への負担は一切ありません。

通常の体外受精と同様に、奥様の排卵誘発を行い卵子を採取し、ご主人の精子と体外受精(顕微授精)を行います。受精卵を胚盤胞の段階まで培養し、発達状態の良い胚盤胞それぞれの栄養外胚葉(外側に位置する部分)から5-6個の細胞を採取した後、受精卵はパシフィック生殖医療センターにて凍結保存されます。採取された細胞は、着床前診断(PGD)ラボラトリーへ送られ、各々の受精卵ごとに、その特定遺伝病特有の遺伝子変異があるかどうか診断が行なわれます。

胚盤胞の内塊部(後に胎児となる部分)からは一切細胞を採取しないので安心です。

診断結果が出た後、奥様の都合の良い日程に合わせ、その遺伝病特有の『遺伝子変異が無い』と診断された受精卵のみを選び、胚移植を行ないます。

妊娠成功率

着床前診断(PGD)の場合、妊娠成功率は、二つの点に左右されます:

  1. 奥様の卵巣機能(卵子の質)
  2. 得られた受精卵の中の、遺伝子変異のない受精卵の比率

着床前診断(PGD)プログラムの妊娠成功率は、最終的に移植される受精卵の質、つまりは生殖力によって異なります。受精卵の質は主に卵子の質に依存するところが大きく、卵子の質は、採卵時の女性の年齢や卵巣機能の状態に大きく左右されます。

一般的には、成功率が最良レベルなのは採卵時の女性の年齢が満32歳頃までで、その後加齢と共に成功率は少しずつ減少していきます。成功率低下の原因は、卵子の老化によって引き起こされる受精卵の染色体異常で、これは、遺伝病変異とはまた別に散発的に起こる現象です。

着床前診断(PGD)プログラムへのお申込は、女性の満38歳のお誕生日までにお願いしております。着床前診断(PGD)プログラムの患者様は、染色体異常がなく、且つ遺伝病の変異のない受精卵を選別する必要があるため、一回の採卵サイクルで採取できる卵子の数が多いほど、希望する診断結果をもつ受精卵が得られる確率が高くなることが期待されます。しかし、40歳を越えると、一回の採卵サイクルで得られる卵子の数が減少し、希望する診断結果をもった受精卵が得られる可能性が遠のきはじめます。

そのため、女性の満38歳のお誕生日までにお申込いただくことで、特定遺伝疾患についての事前相談・着床前診断(PGD)ラボラトリー設定も含め、治療と向き合う充分な時間をもつことにつながります。

IFC着床前診断プログラムでは、初回検診の際に、担当医からそれぞれのケースの成功率について説明を受けていただけます。

着床前診断(PGD)対象患者様

着床前診断(PGD)実施可能な遺伝病リストにある疾患がご家系にあり、そのような遺伝疾患を次世代に受け継がせたくないと希望するご夫妻が対象となります。

筋ジストロフィーやハンティントン病など、現在着床前診断(PGD)実施可能な遺伝病のリストはこちらからご確認ください: 

着床前診断(PGD)実施可能な遺伝病リストはこちらから

着床前診断(PGD)実施の重要な役割

ご家系に特定の遺伝病のリスクがある患者様が、『次世代に自分の苦しみを受け継がせたくない』という強い思いをもって着床前診断(PGD)実施を選択されます。

結婚を諦めない・人生を諦めない

遺伝病が家系にあることを知った日から、ご自身の発症リスクへの苦悩はもとより、恋愛や将来の結婚を諦め、人生に失望してしまう方が多くいらっしゃるのが悲しい事実です。また、遺伝病があるご家系において、自殺者が出たり、家族内でも離れ離れとなったり、人生の悲劇と直面している方も少なくありません。

しかし、『次世代にその苦しみを受け継がせない』ための着床前診断(PGD)という手段があると知るだけで、未来に希望がつながり、また、辛さを与えてしまったと責任を感じてしまう親御さんの苦悩も軽減されるかもしれません。

このような状況が実際にあり得ることを一般の方にも知っていただければ、着床前診断(PGD)は、単純に健康な赤ちゃんだけがほしいという、自己中心的な我儘なツールではない、ということをご理解いただけるかと思います。

子供をもつという選択肢を現実に

遺伝病のリスクがあることで、最初から子供をもつ選択肢を諦め、結婚も諦めている方々が多くいらっしゃいます。しかし、ご自身に遺伝病のリスクがあっても、最愛のパートナーとの間に、その遺伝疾患をもたない子供を授かるという希望をもつことができます。

妊娠を継続しない決断の回避

妊娠中に胎児に遺伝疾患があると診断されたとき、現実的にその妊娠を継続するかどうか、という決断と直面するご夫妻もいらっしゃいます。これは、人間として余りにも辛く苦しい決断です。

着床前診断(PGD)実施により、実際の胚移植前に、つまり『妊娠前』に、特定遺伝病特有のDNA変異のない受精卵のみを選別し移植することができるため、赤ちゃんの命が宿ってからの辛い決断を回避することができます。

完全非開示着床前診断(PGD)

ご家系に特定の遺伝性疾患があり、ご自身にもそのリスクがあるが、ご自身が実際に発症前診断を受けずに、そのような遺伝疾患をもたない子供を授かりたいと希望する場合、『完全非開示』形式の着床前診断(PGD)が適応できる場合があります。

ハンティントン病など、成人してから発症する遺伝疾患について、ご自身への完全非開示形式着床前診断(PGD)の適応が検討可能です。遺伝カウンセラーによる個別検討が必須となりますので、まずは弊社IFCにお問合せください。

正確性

着床前診断のジャンルでは、100%、という正確性の数値をラボラトリーは表示しません。検査結果は基本的に98%~の正確性とされていますが、個々のケースの正確性の展望について事前に詳細検討が行なわれます。

着床前診断(PGD)の限界

着床前診断(PGD)によって診断できるのは、受精卵中の特定の遺伝病1種類だけとなっています。このような最先端技術をもってしても、一度に複数の遺伝病を特定することは現時点ではまだ不可能です。

しかし、基本的に、「着床前診断(PGD)」と同時に、「着床前全染色体診断(CCS)」を実施し、散発的に発生する受精卵の染色体異常を診断することは可能です。